かんがえごと


デザイナーが風立ちぬを見終わって

<ネタバレ注意>

今、話題の映画『風立ちぬ』を見た。広告デザイナーとしての所感。

 まずは見終わった素直な感想として、「なんか気持ち悪くて胸がモヤモヤする。北野映画の持つ男性性の持つ不快感と美しさと儚さに似てる」だった。昨晩見終わって、ずーっと映画のことを考え続けている。色々な人の意見を見、自分なりに消化しようとした。で、僕の感じたことは、評論家の岡田斗司夫氏がほぼ言語化してくれているので、そちらを見ていただければ幸い。広告デザイナーとしての視点で考えてみた。

 「なんか気持ち悪くて胸がモヤモヤする」と前述したが、実はこの気持ち悪さは今もずっと続いている。「あぁそうか。太宰治の人間失格の読後に似てるんだ・・・。」と気がついた。「最低で最高」こう評している人がいたが、まさにその通りだと思う。

 『風立ちぬ』は、宮崎駿が初めて自分のために作った映画だと思う。それは子供に向けたファンタジーを描いた大衆映画ではなく、モノづくりをするアニメ監督という自分と、飛行機エンジニアである主人公の二郎を重ねあわせ、家庭も顧みずにただひたすらに美しいものを追い求め、また、追い求めた結果を描いた、芸術映画であるだろう。
 結核で入院中の妻を一度も見舞うことなく、「仕事があるので見舞いには行けません」といった内容のことを堂々と言ってのけるシーン、結核で寝こむ妻の真横で図面を引きながらついついタバコを吸ってしまうシーン、二郎の持つ非人間的な性質、だから二人は愛し合ってしまう哀しさが充分に描かれているこの映画は、「二人の純粋な愛に感動して泣きました!」というような、分かりやすい感動巨編と一線を画しているのは明らかだ。

 二郎は映画のラストで、恋をし愛する人を失ってしまうが、映画のメインビジュアルは「二人」ではなく、二郎と飛行機だ。これは、この映画の“主題”が「時代に翻弄されたふたりの恋物語」などではなく、宮崎駿自身が日頃行なっている「創ること」であり、それは取りも直さず「生きること」に繋がっているからだ。

 「創ること=生きること」が主題であると見ると、もののけ姫のキャッチコピー「生きろ」をどうしても思い出してしまう。だが、その本質は大きく意を異にする。もののけ姫は「厳しい現実の中ででも生きていくこと、その生きていくことこそが現実なのだ。」という一見ヒューマニズムともとれるメッセージが込められていたように思う。それが宮崎駿の大事にするファンタジー性でもあるし作家性だと言われてきたのだろう。
 だが、今回のキャッチコピー「生きねば」は、どうも腑に落ちない。語呂も悪い。何故宮崎駿は「生きねば」でなければならなかったのか。
 「生きねば」という単語には何かしら接続詞がつく。「それでも生きねば」だという事は映画をご覧になった方なら分かるとは思うが、「それ」とは何なのか。愛する人を失くしたけれども生きねば、なのか。戦争で多くの命が失われてしまったけれども生きねば、なのか。僕の夢は潰えてしまったけれども生きねば、なのか。
 「生きねば」というとどうも安っぽい言葉に聞こえるけれども、これを創らねば、に変換すると、背筋の凍るような凄味が出てくる。

「僕の我儘で愛する人を殺してしまったけれども創らねば。」
「僕の作った飛行機で多くの人間が死んでしまったけれども創らねば」
「僕の夢は潰えてしまったけれども、それでも創らねば」

 僕は広告デザインを主な生業としているが、広告の持つ暴力性と常に戦い葛藤しながら仕事をしている。(というほど大した仕事は出来てないけれど)それは、広告が「グローバル資本主義」「市場原理主義」「自然破壊」「景観破壊」「貧富拡大」など地球規模で起こっている負の問題に、少なからず加担しているからだ。葛藤しながらも何とか加担から逃れようと足掻いているが、大きな流れに飲み込まれたまま解決は出来ていない。だが、創り続けている。

 「創ること」は失うことに納得している人間、もしくは失うことに気が付かない人間が持つ特権なのだろうか。宮崎駿の妻は息子に対し「あなたはお父さんのような人間になってはダメよ」と言ったという。主人公の二郎は、戦争に対して、妻の死に対して、田舎の家族に対して、都合の良い部分だけを見て、それ以外には徹底的に背を向けて創り続けてきた。広告デザイナーである僕は、失うことに対して納得出来ていないし、きっと死ぬまで納得出来ないと思う。だけれども、それでも、創らねば。
 そう思ってしまうからこそ、この映画は感動してしまうのだろう。何故今この映画を撮らねばならなかったのか。「戦争」というキーワードを本人は口にしているようだが、きっともっと奥深い人間の業のようなものを切り出したかったのではないかと思った。宮崎駿の天才性と残酷さをまざまざと見せつけられた、紛れも無い怪作であることは間違いない。